病気の予防に重要なワクチン接種。
薬剤師の視点で世界のワクチン事情や新しいワクチン、また親の視点からワクチンについてきさいしていきます。
少し専門的な話になりますが、どうかお付き合いください。
病気の予防に重要なワクチンの知識入門
世界のワクチン5社と日本
現在、次世代ワクチン候補が続々と開発中されています。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)によれば、米国で開発中のバイオ医薬品901剤(2011年)のうち、298剤はワクチン製剤であり、抗体医薬の300剤とほぼ同じ程度。
そのため、世界のワクチン市場規模は約2兆円(全医薬品の約 3%)から2023年には12兆円(1000億ドル)に成長すると見込まれています。
こんな内容ばかり書くとワクチンを金儲けのために、と言われてしまうかもしれませんが、そうではなくそれだけ必要とされているとご理解ください。
なお、2011年の世界市場はGSKやサノフィをはじめとする海外企業わずか5社で80%をシェアす
る独占状態であり、残念ながら国産ワクチンメーカーの存在は見る影もないのが実情です。
しかし、15年に開催された日本ワクチン学会のテーマは「オールジャパンでの新規ワクチン創製お
よび接種環境向上へむけて」でありました。
日本がワクチン後進国(ワクチンギャップ)の段階からワクチン先進国へと舵を切ったターニングポイントでした。
次世代ワクチン開発のポイント
次世代ワクチン開発のポイントは以下の3つあります。
- 混合ワクチン
- 投与方法のイノベーション
- 製造法
1つ目は混合ワクチンについて
複数の感染症を予防(個人免疫)するとともに、接種率向上(集団免疫)を図ります。
そうすれば免疫不全や白血病などワクチン接種できない子どもたちも守ることができます。
また、通院回数が減るので母親の利便性が高まるばかりか、メーカーのコストも下がり、医療用廃棄物も減ります。
欧米(一部の途上国でさえも)は4~6種混合が主流となっています。
サノフィパスツールの5種混合 Penacel®(百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、ヒブ)や6種混合(+B型肝炎)があれば母親も医師も非常に助かります。
あの複雑極まりない定期接種スケジュールをこなすのは一苦労だと思います。
経験したことある親御さんは、共感していただけるかと。
15年12月に発売された第一三共の百日せき、ジフテリア、破傷風及びポリオを予防する「スクエ
アキッズ(R)皮下注シリンジ」は、DPT ワクチンとサノフィの不活化ポリオワクチン(ソークワクチン)をプレフィルドシリンジに充填した4種混合ワクチンです。
2つ目は投与方法のイノベーション(投与経路・デリバリー)。
(1)経鼻型・噴霧型ワクチン(粘膜免疫)
(2)針なしワクチンと皮内型ワクチン、経皮ワクチン
の2つが注目されています。
(1)は、既に米国で鼻腔噴霧インフルエンザ弱毒生ワクチン(メドイミューン社/英アストラゼネカ)
として使用が開始されています。
第一三共は15年9月、同剤の国内ライセンス契約を締結しました。
一方、国立感染症研究所は安全性が高い経鼻不活化インフルエンザワクチン(新型インフルエンザ)を開発中。
生ワクチンの適応とならない乳児や高齢者も使えます。
粘膜ワクチンは体液性免疫と細胞性免疫の両方を誘導できるため、感染症予防のための次世代ワクチンとして期待されています。
(2)では、米国のPharmaJet社の「針なしインフルエンザワクチン」(18 歳から 64 歳まで)の評価が高いです。
Safe(安全)Easy(簡単)Cost-Effective(コスト効率の高い)Comfortable(苦痛がない)の4つのメリットがあるといわれています。
一方、国内では第一三共とテルモが開発した皮内投与型インフルエンザワクチンがあります。
メリットは2点。
1つは、痛みが少ないこと。
皮下組織の末梢血管及び神経に対するリスクを低減されました。
もう1つは皮下や筋肉投与より免疫効果が高いこと。
皮膚上層部には樹状細胞が多いため、皮内用なら効率的抗原が送達され、従来の皮下に比べ有効性が高いといわれています。
3つ目は、製造法。
日本のワクチンは製造に時間がかかるといわれている鶏卵培養ですが、世界では臨機応変に生産
でできる細胞培養が主流です。
卵アレルギーがある場合。。といわれるのもこのためです。
日本でもパンデミックインフルエンザに備え、乳濁細胞培養インフルエンザHAワクチン(プロトタイプ)筋中用(武田薬品など)が承認されました。
水痘多価ワクチン(国産の次世代高付加価値ワクチン)
最後に、メーカーのワクチン開発では子を持つ母親の視点がますます重要になります。
その理由は二つあります。
一つは、乳児や子どもにとってワクチンがない感染症がまだたくさんあることです。
- りんご病(伝染性紅斑)
- 手足口病
- ヘルパンギーナRSウイルス感染症
- 突発性発疹
- 乳児ボツリヌス症
あげるだけでもきりがありません。
もう一つの理由は、副反応を過剰に恐れているワクチン嫌いの母親は世界中にいることです。
裏返せば、日本を含む世界のワクチンメーカー(特に独占5社)にとって、最大の脅威は
母親の厳しい目―副反応(訴訟)や供給不足―であるともいえます。
その供給不足が日本で起きました。
15年12月時点で、化血研が製造するワクチン(日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎)が不足しました。
同社のワクチン10製品と血液製剤12製品の不正製造が発覚して厚労省が行政処分(出荷自粛)されたためです。
ワクチンを製造/供給するには時間がかかる(鶏卵培養の場合)。
そのため、臨機応変に製造できる細胞培養が必要なのです。
子を持つ母親の視点
複数の感染症を予防できる水痘多価ワクチン(おたふくかぜ、麻疹、風疹抗原遺伝子含む)は、わが
国の期待の星になる可能性を秘めています。
言い換えれば、1 種類の生ワクチン接種で複数のウイルス抗原に対する免疫能が誘導され複数のウイルス感染に対する防御効果が期待できるワクチンです。
このワクチンは国が推進する次世代・感染症ワクチン・イノベーションプロジェクトが取り組む次世代高付加価値型ワクチンの 1 つで、世界から評価されている阪大微研(以下、ビケン)が開発した岡株水痘ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)をベースとした組換え多価ワクチン。
水痘ワクチンゲノムのクローン化を世界で初めて大腸菌内で行い、生ワクチンとして最適なベクターを選出した。
たしかに1回接種で終生免疫が獲得できる優れものだが、コスト高と組み換えウイルスの安全
性(倫理問題)の解決が今後の課題です。