ようやく流行のピークを越えたインフルエンザ。
しかし、まだまだ油断は禁物です。
これからはインフルエンザB型が流行する時期。
A型にかかった方もB型にかからないように注意が必要です。
今回は私のコミュニティでも話題になった
インフルエンザに対する漢方薬の効果について
薬剤師の目線で解説していきます。
インフルエンザそのものの特徴や、医薬品ゾフルーザに関しては以下の記事もご参照ください。
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インフルエンザの診断と検査結果
まず、インフルエンザ感染症の診断は、迅速診断キットによる検査結果に基づくことが多いと思われがちです。
しかし、検査結果が陰性でもインフルエンザを否定できないケース(偽陰性)は少なくありません。
そのため、検査陽性ならば抗インフルエンザ薬を処方し、陰性ならば処方しないという画一的な診療は、推奨されません。
時にインフルエンザ検査が陰性であっても、そのほかの情報からインフルエンザの疑いが高ければ抗インフルエンザ薬を医師は処方することができます。
神戸大学大の岩田健太郎先生によるインフルエンザ診療方針の試案では、
重症・ハイリスク患者においては、迅速診断キットの結果に関係なく抗ウイルス薬の使用を考慮するとされています。
重症でもハイリスクでもない患者では、抗ウイルス薬か漢方薬かを患者に選択してもらいます。
抗ウイルス薬を希望した場合、検査前確率が50%未満であれば検査を行い、それ以上であれば行わない。
つまり、流行状況や臨床症状から目前の患者が50%以上の確率でインフルエンザに罹患して いると考えられれば、検査なしで抗ウイルス薬を処方する。
また、漢方薬の処方に際しては、検査前確率に関わらず検査は行わないとされています。
検査が信用できるかについては、詳しくは以下の記事もご覧ください。
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インフルエンザ感染症に対する標準的な薬物療法は抗ウイルス薬だといえます。
今回は、インフルエンザ感染症に対する漢方薬の有効性について考えていきます。
補中益気湯でインフルエンザ予防ができるのか?
インターネットでインフルエンザに対する漢方薬関連の情報を検索すると、
[box class=”red_box” title=””]補中益気湯でインフ ルエンザが予防できるかもしれない[/box]
といった内容の記事を発見することができます。
もちろん医療用の補中益気湯にはインフルエンザ予防の適応はありません。
しかし、この薬はOTC薬として一般のドラッグストアやネット販売でも購入可能となっています。
補中益気湯のインフルエンザ予防効果に関して報告はいくつかあります。
一つ目の報告はBMJ(英国医師会誌)に掲載された、英国におけるA/H1N12009(2009年に世界的に流行した新型インフルエンザ)の流行状況と死亡率に関する論文です。
子の論文では、病院職員358人を対象に、2009年9月7日より、補中益気湯を服用した179人と、服用しなかった179人(グループ 1)の2群を比較して、インフルエンザの発症数を検討しました。
その結果、補中益気湯を投与された職員のうち 14 人が1週間後に服用を中止し(グルー プ 2)、さらに治療開始 4 週後までに103人が中止(グループ 3)しており、8 週間にわたり服用を継続していたのは62人でした(グループ4)。
9月7日~11月2日までの8週において、迅速診断検査によって確認された A 型インフルエンザ感染は8人であり、そのうち7人は補中益気湯を一度も服用していなかったと報告されています。
また、 グループ1とグループ2~4を比較してインフルエンザ発症者を比較したところ、統計学的な差が示されています(P<0.05)。
しかし色々なバイアス(統計学的な偏り)を考えると、この結果のみで補中益気湯のインフルエンザ予防効果を論じることには無理があります。
そもそもこの報告には、
予防効果について検証されるべき
という記載はあっても、
予防効果がある
とは書かれていません。
[box class=”yellow_box” title=”結論”]補中益気湯には、インフルエンザウイルスの細胞内侵入を防ぐ可能性が示されているが、2019年1月末時点において補中益気湯のインフルエンザに対する人での有効性(予防もしくは治療効果) を検討した報告は見付けることはできませんでした。[/box]
麻黄湯ではインフルエンザ予防効果はあるのか?
医療用として用いられている麻黄湯は、キョウニン、マオウ、ケイヒ、カンゾウから構成される漢方薬です。
インフルエンザ感染初期の症状緩和に保険適用があります。
麻黄湯には基礎的研究において抗ウイルス作用が示されていて、インフルエンザ治療における有望な選択肢となる可能性があります。
麻黄湯に関する報告は5つあります。
小児を対象に発熱に対する有効性を検討した2つの研究では、オセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフル)と比較して、いずれも発熱持続時間が有意に短縮していた。
また、成人を対象に発熱に対する有効性を検討した3研究中2研究では、オセルタミビルと統計学的な有意差は認めなかった。
一方、その他の1件の研究では、発熱期間がオセルタミビルと比較して麻黄湯で17時間ほど短いことが示されています。
タミフルなどと比較して効果に有意な差を認めないということは、抗ウイルス薬と麻黄湯がほぼ同等の効果を持つとも考えられます。
また、インフルエンザ感染症に対するアセトアミノフェン(カロナール他)の効果は限定的であり、早期に解熱を期待するのであれば、麻黄湯は有望な治療薬となり得るかもしれない。
実際のところ、インフルエンザに有効な漢方薬はないのか?
日本でインフルエンザ(流感)に保険適用がある漢方薬には、麻黄湯以外に柴胡桂枝湯、 竹じょ温胆湯があります。
しかし、論文や研究報告を検索しても、これら漢方薬のインフルエンザ感染症に対する有効性を検討したものを見付けることはできません。
インフルエンザ感染症に対する漢方薬の有効性を検討した比較的規模の大きい研究は2011年に報告されています。
インフルエンザ感染症に対する漢方薬の有効性を検討した質の高い報告であるこの研究は、15~69歳のインフルエンザ患者410人(平均19.3歳、男性60%)を対象としたもの。
被験者を、
[box class=”black_box” title=””]
- オセルタミビル 75mg1 日2回5日間の投与(102人)
- 麻杏甘石湯と銀翹散の併用 1日4回5日間の投与(103人)
- 麻杏甘石湯、銀翹散とオセルタミ ビルの併用投与(102人)
- 薬物の投与なし(103人)
[/box]
の4群に割り付け、解熱までの時間を比較しました。
その結果、解熱までの時間中央値は、治療なし群の26時間と比較して、オセルタミビル群で20時間、麻杏甘石湯と銀翹散併用で 16 時間、 オセルタミビル、麻杏甘石湯と銀翹散の併用で15時間という結果でした。
薬剤師目線で考える
研究の問題などを考えると、漢方薬の有効性は現時点では決して高いものではないという結論に至ります。
ただ、そもそも漢方薬はインフルエンザ症状という”現象”に対する治療であり、その治療対象はインフルエンザウイルスではありません。
もちろん、基礎的研究において抗ウイルス作用が示唆されている生薬成分もあるとは思いますが、それが臨床症状の改善をもたらすかどうかについての因果は現時点で証明されていないのです。
そして、“現象”に対する治療であれば、インフルエンザウイスルが存在するかどうかはどうでもよい問題でもあります。
このように記載すると無責任な気もしますが、このどうでもよさが、必要性の低い検査や不適切な抗ウイルス薬投与を減らすことにつながるかもしれません。
まとめ
インフルエンザの診断と治療薬の選択について記載しました。
色々な研究があり、白黒はっきりしないのが現状です。
まずできることは、
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- 医療者は、インフルエンザの可能性は低いのに念のため抗インフルエンザ薬を処方しておくということをしない。
- 患者としては、むやみに薬を希望しない
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これらのことが抗インフルエンザ薬の適正使用につながるのではと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。