現代でも様々な医療がありますが、根拠がないまま長期間にわたって当たり前のように行われているトンデモなインチキ医療は歴史的にも数多くあります。
今回は世にも危険な医療の世界史という本から考えられる、昔から行われてきた医療行為について記載していきます。
今回読んだ本はこれです。
内容としては、残酷な部分の記載もあるため苦手な方はご遠慮ください。
世にも危険な医療の世界史
現代でもインチキ医療、危険な医療はいくらでも見つけることができますが、過去の医療の多くは
現代の比ではなく危険で同時に無理解の上に成り立っていたという内容の本です。
この本はそんな危険な医療史を、
- 元素(水銀、ヒ素、金など)
- 植物と土(アヘン、タバコ、コカインなど)
- 器具(瀉血、ロボトミー、浣腸など)
- 動物(ヒル、食人、セックスなど)
- 神秘的な力(電気、動物磁気、ローヤルタッチ)
の五種に分類して、語られている一冊です。
本のなかで、
[aside type=”warning”]
実のところ、この本は何でも治ることを売りにした最悪の治療法の歴史を、簡潔にまとめたも
のだ。言うまでもなく、「最悪の治療法」は今後も生み出されるだろう [/aside]
との記載があります。
単なる事例集にすぎないとも思えますが、出てくる例があまりにもトンデモでひどいことをやっているものばかり。
たとえば、ペストを予防しようと土を食べたオスマン帝国の人々、梅毒の治療のために水銀の蒸し風呂に入るヴィクトリア朝時代の人間、剣闘士の血をすする古代ローマの癲癇患者たち
今から考えると彼らの行動は信じがたいものばかりですが、彼らも冗談でやっていたわけではありません。
本気で治そう、治るんだと信じてやっていたのであって、そこには彼らなりの真剣さがあり、理屈が存在していました。
そう、本書で紹介されている治療法にはどれも(結果は伴わないにしても)それっぽい理屈は通って
いることが多いことが特徴です。
だからこそ人々はそれを信じましたし、我々は今でも似たような理屈や治療法を信じる可能性があります。
かつてのトンデモ医療に驚くだけでなく、今でも身の回りにこうした最悪の治療法は根付く可能性があると危機感と猜疑心の眼を育たせてくれる本です。
トンデモ医療:水銀
まず最初に元素の章から代表的なものとして水銀があります。
[aside]
水銀製剤は、何百年もの間万能薬として利用されてきた。気分の落ち込み、便秘、梅毒、インフルエンザ、寄生虫など、どんな症状であれ、とりあえず水銀を飲めと言われた時代があったのだ [/aside]
といい、ナポレオンもエドガー・アラン・ポーもリンカーンも水銀製剤を愛用、または一時期使用していたといわれています。
しかしなぜこんなにまでも水銀が愛用したされたのでしょうか。
16世紀から19世紀初頭まで愛用されていたのは、カロメルと呼ばれる水銀の塩化物のひとつです。
服用すると胃がムカつくことがあり、強力な下剤効果を発揮し、物凄い勢いで腸の中身がトイレに
流れていきます。
それだけではなく、口からも大量の唾液が分泌されます(水銀中毒の症状)。
16世紀の著名な医学者パラケルススは、唾液が1.5リットル以上分泌された状態を水銀の適度な服用量とみなしていたといわれています。
現代的な感覚からすると完全におかしいと思ってしまいますが、当時の人達は唾液に混じって大量の毒素が流れ出していると考えていたので、それが身体にいいと判断していたようです。
また、便秘が病気を引き起こすと考えていたので、下剤的効用も歓迎されていたのです。
トンデモ医療:アヘン
植物と土の章で出てくるアヘン。
アヘンといえばドラッグ。
医療目的で使うのはありでは? と思うかもしれませんが、長い期間にわたってその使われ方は雑でした。
たとえば泣きやまない子供にはケシとスズメバチの糞で静かにさせよと紀元前1550年の古代エジ
プトの医学文書に書いてあります。
かなり昔の話と思いきや、1400年代から20世紀まで教科書にも子供の夜泣きやぐずりにはアヘンとモルヒネの調合薬がきくと書いてあったようです。
静かにはなりましたが、それで実際命を落とす子も多かったようです。
意味不明な医療:タバコ
理屈の通っている治療法が多い中、完全に意味不明なものもあります。
タバコを用いた治療法の中でとりわけ不可思議なのがタバコ浣腸。
タバコの煙をお尻の穴に注入するだけの治療ですが、なぜか水難者の体にタバコ煙を注入すると体を温めて呼吸器を刺激できると考えた人がいて、多くの人が実践したようです。
無論何の効果もないことは明らかです。
これは18世紀頃に流行したもの。
危険な医療:瀉血
危険な医療の中で代表的なものは瀉血です。
病を患った時、悪い血を抜くことで治そうとした治療法で、最初に行われたのは紀元前1500年頃のこと。
実際はなんの効果もないことは明らかですが、病が内側から起こっている以上、身体の中から何かを抜くという発想になるのは理屈としてはよくわかります(水銀の件も同様)。
数千年にわたって、天然痘も癇癪もペストも失恋によるメンタルの不調まで全部瀉血で治そうとする人々がいました。
さらにあまりに一般的だったので理髪師がサービスのひとつとして瀉血を行うこともあったようです(これは古代ローマや中世ヨーロッパでもあったといわれています)。
トンデモ医療:ロボトミー
この本の中でもっともえぐいものがロボトミーについて語った章です。
これは統合症失調患者や幻覚症状のある精神疾患患者の頭蓋骨を開き、前頭葉の一部を切り離す手術のこと。
結果としては治療効果はないどころか完全に害しかありません。
最初期はスプーンで何杯も大脳皮質を取り除いたといわれています。
一部の患者は確かにおとなしくなって幻覚を見なくなったようですが、多くの患者は死んだり障害に悩まされたりしました。
トンデモ医療:食人
動物の中では食人が印象的です。
ここでもパラケルススが出てきますが、彼は人体の一部が含まれた治療薬には魂やエッセンスが仕込まれており、その薬効で病が治ると考えました。
また、今でも似たようなことをする人はいるかもしれませんが、元気な人間の血を飲むと健康が手に入るという考えが昔から根強く残っています。
一世紀の頃、癲癇の患者たちは剣闘士の血を飲み干したし、17 世紀でも罪人が斬首されると壺を片手にかけよってそれをそそぎこみ、新鮮な血を浴びるようにして飲んだといわれています。
トンデモなインチキ医療
最後まで読んでいくと、医療や治すことの難しさがわかってきます。
何しろ、人間がかかる病の大半は放っておいても治ってしまうものです。
そのためインチキ療法であっても、自然治癒してしまう可能性は高いく、治療を受けたのだからというプラセボ効果が発揮されることもあります。
そうすると、インチキ療法と本当の治療の判断をするのは極端に難しくなります。
また、それは治療を受ける側だけでなく、施術する側も。
この本の中でも、結果的に最悪の治療法になったとはいえ、治療法考案者自身が本気で効果があると信じて行っていたものも多いのが事実です。
たとえ効果がなかったとしても、時代を考えれば他の手段をとりようがないケースも多く、そうした時代においては治療を受けたという精神的な安定だけであっても意味のあるものだったのかも
しれまえん。
現代はEBM、根拠あるエビデンスのもとに行われる医療が基本的なものという認識がありますが、まだ原因が未知の病気もあり、依然として完全な治療が存在しない以上、人はこれからも「なんでも治してくれる、まだ見ぬ医療」を期待し続けるでしょう。
そうである以上それに応えようとする最悪の治療法も、この本の著者がいうようになくなることはないのかもしれません。
今回読んだ本は、世にも危険な医療の世界史です。