薬剤師目線:病気の予防の一つとして重要なワクチン
現在でも様々なワクチンが保険適応となり、定期接種や任意接種の違いはあるものの病気の予防に多大なる貢献をしています。
ワクチンには生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドなどの種類があり、接種間隔などが違います。
ワクチンの違いについては、下の記事で記載していますのでぜひご参照ください。
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そして、基礎研究者、臨床医、製造・開発研究者、疫学研究者の多様な分野の研究者が集まり、ワクチンの開発や臨床への対応を目的として活動を行っている日本ワクチン学会。
毎年行われている学術集会にて、新しいワクチンについてのシンポジウムがありました。
今までのワクチンは基本1対1のワクチン効果があります。
要するにインフルエンザワクチンはインフルエンザに効果が、麻疹風疹ワクチンはそれぞれ麻疹と風疹にワクチン効果があります。
細かくインフルエンザの型などの違いはあるものの、病原体1つに対して1つのワクチンです。
今回研究の成果が報告されたワクチンは、1つのワクチンで2つのワクチン効果があるというもの。
ウェルシュ菌毒素とベロ毒素の両方に効果のあるワクチンについてです。
2 つのワクチン効果発揮する蛋白作製
第22回日本ワクチン学会学術集会(会長・森康子神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス分野教授)が2018年12月8、9日、神戸市内で開かれ8日にシンポジウム 1「新規ワクチン」がありました。
そこで発表された内容は、一つのワクチンがウェルシュ菌毒素とベロ毒素の両受容体に結合するというもの。
病原・共生微生物のユニークな機能を用いた新規ワクチン・アジュバント開発の新展開
での発表です。
ウェルシュ菌毒素とベロ毒素の両方の受容体に結合する蛋白を作製。
有効性が確認されたと報告されました。
ひとつの蛋白でふたつのワクチン効果が得られるとまとめています。
製造の観点からも有利、実用化に向け研究
研究のきっかけは少し難しい話になりますが、
腸管に多数存在するIgA抗体産生細胞の中に、高いIgA抗体産生能力を持つCD11b陽性IgA細胞を発見したことです。
難しい話はさておき、腸管出血性大腸菌 O157 やウェルシュ菌による細菌性食中毒は年間 2000~3000 人が発症するといわれています。
治療法やワクチンは現時点では存在しません。
ウェルシュ菌は、食品を介して経口感染し腸管内で増殖、エンテロトキシン(CPE)という毒素を産生することで食中毒を引き起こします。
研究では、毒性部位を除いたベロ毒素の受容体結合部位であるVT2BとC-CPEを結合させた蛋白を作製。
このVT2B-C-CPEに毒性はなく、ウェルシュ菌毒素とベロ毒素の両方の受容体に結合し、ウェルシュ菌毒素に対する中和抗体が誘導されたとのこと。
さらに、ウェルシュ菌毒素は高カリウム血症を起こしますが、VT2B-C-CPEを投与したマウスはウェルシュ菌毒素を注射しても、中和抗体があるので正常なままだったと結論づけています。
ベロ毒素の代わりにコレラ毒素抗原と融合したCTB-C-CPEも作製し、マウスに投与後、それぞれの毒素を注射しても下痢の症状を抑えることができたと説明。
これまでの多価ワクチンは別々のものを作って混合するタイプがほとんどでした。
四種混合や三種混合ワクチンと呼ばれるものがそれです。
今回の方法では、ひとつの蛋白でふたつのワクチン効果が得られます。
製造の観点からも優れており、今後は実用化に向けた研究が行われるようです。
まとめ
今回は現在行われているワクチン研究の話について、記載しました。
普段あまり、研究が身近でない人にもワクチンや薬が世の中に出るまでの流れを少しでも伝えられたらと思います。
今回の記事が何年後かに、ついにあの記事のワクチンが出たのか!!
と言われるのもそう遠くないかもしれません。
腸管出血性大腸菌もウェルシュ菌も、悩まされる病原体の一つです。
予防としてのワクチンが開発されれば、苦しむ患者さんも少なくなるかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。