8月に入り夏本番。
うだるような暑さも続き、日差しも強い中熱中症での死亡例などっも報告されています。
https://www.youtube.com/watch?v=BrT3HFcNZ9Y
熱中症にならないために。またなった場合の対処法を知っておくことは今からでも遅くはありません。
科学的な知見から熱中症の症状やそれに対応する方法について、今回は取り上げます。
熱中症に塩分補給は必須、最悪の場合には悪性症候群に至る場合もあります
熱中症で気を付けるべきポイントは全部で18個あります。
- 熱失神は皮膚血管拡張が原因の失神、熱痙攣は塩分なしの水分補給による筋痙攣
- 人が耐えうる最高温は 41.6-42度で45分‐8時間。49‐50度5分で死亡する
- 湿度75%以上で発汗蒸発不能。発汗で最大600Kcal/時放熱。抗コリン薬注意。
- 心拍出量が増えないと熱射病起こす。β拮抗剤、利尿薬等内服薬に注意。
- 血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血→腸管透過性亢進→endotoxin血中へ入る
- 最大酸素摂取量の80%超えると腸管透過性亢進する。
- 熱ショック蛋白はシャペロン機能(蛋白折り畳み)で細胞を防御する
- 熱射病のDICは敗血症と同じ線溶抑制型DIC。CBC, PT, PTT チェック。
- 熱射病診断は深部体温>40度、中枢神経障害の二つ。無尿の死亡リスクHR5.24。
- 古典的熱射病は呼吸性アルカローシス、運動性熱射病は呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
- 検査:胸Xp,ECG, CBC,電解質,BUN,Cr,CK,GOT,GPT, PT,PTT,尿 myoglobin,検尿,頭 CT
- DICでは血小板,Plt, Fibrinogen, PT, APTT, SF, TAT, PIC, AT, TMなど検査
- 冷却しても意識悪ければ髄膜炎、脳出血、視床下部卒中考え CT,髄液検査
- 40 度以上発熱は熱射病、悪性症候群、悪性過高熱考える必要あり
- 冷却は 40 度の湯を体表にスプレーし扇風機、首・脇・鼠径にシャーベット状氷を
- 冷却は38-39度で中止!ノルアド・NSAIDは使用不可!低血圧には生食を!
- 震えには benzodiazepine、悪性症候群でなければchlorpromazine
- 横紋筋融解:CK>5,000 は生食 1-2ℓ/h、尿 200-300ml/h に。メイロン使用、尿 Ph>6.5 に
これはNew Engl J Medの総説と2018Up to Date熱射病 heat strokeをまとめたものです。
熱中症は厳密にはっきり線引きできません。
しかし、継承のものから重症にむかって次のように4つに分けます。
熱中症の分類
- 熱失神(heat syncope):血管拡張で脳血流減少して立ち眩み、失神。体温正常
- 熱痙攣(heat cramp):四肢、腹部の筋痙攣、こむら返り。 水分補給のみして塩分を補給しない時起こる。熱は 38 度以下
- 熱疲労(heat exhaustion): 汗で塩分、水分大量に失い細胞外液減少。 悪心、嘔吐、頭痛、めまい、低血圧。直腸温 38-39 度。生食輸液。myoglobin 尿チェック
- 熱射病・日射病(heat stroke):発熱 40 度以上、中枢神経症状(譫妄、痙攣、昏睡)あり
以上の4つに分類されます。
ニュースなどで流れる熱中症での死亡例などは熱射病の段階といえます。
さらに熱射病も以下のように分類わけができます。
- 古典的熱射病(Classical heat stroke):高温環境で起こるもの
- 運動性熱射病(Exertional heat stroke):運動によるもの
熱痙攣
熱痙攣(heat cramp)は夏のビニールハウス作業などで水分だけ摂って塩分を摂らない場合に起こります。
筋肉がピクピクするとか脚がつるなどの症状で来ます。
熱中症予防に塩分をとることはとても重要です。
外で働く場合は夏は岩塩や梅干しを持参したり岩塩を齧りながら仕事をすることも予防につながります。
人が耐えられる温度
人が耐えうる最高温は41.6-42度で45分‐8 時間。
49‐50度5分で死亡するといわれています。
体温が42度以上でミトコンドリア内での酸化的リン酸化(ATP 産生)は困難になり酵素も活動を停止します。
49度から50度で全細胞構造は破壊され5分で死亡します。
湿度 75%以上で発汗蒸発不能に
湿度が75%を超えると汗をかいて体温を調節することが困難になります。
発汗では最大600Kcal/時の熱が放熱されるといわれています。
体温1度程度の上昇を末梢や視床下部の熱センサーが感知し、視床下部前方の体温調整中枢から自律神経を介して、全身の発汗、 皮膚血管拡張が起こり熱くなった血液を内臓から体表に送ります。
交感神経による皮膚血管拡張により皮膚血流は 8ℓ/分まで増加し、また発汗を促します。
発汗による蒸発熱で体表は冷やされますが1.7mlの発汗で1kcalの熱が消費されます。
しかし湿度75%以上になると蒸発ができなくなります。
そのため天気予報で湿度75%以上と言ったら要注意です。
乾燥していれば発汗により最大 600kcal/時の熱を放散できるということです。
一方、老人では皮膚への血流低下、熱放散する表皮面積低下、皮膚血管拡張障害があり発汗による放熱が困難になります。
熱射病のリスクの高いのは、特に
- 70 歳以上
- 心血管疾患
- 神経・精神疾患
- 肥満
- 無汗症状
- アルコール、コカイン、β拮抗剤、利尿剤の内服
です。
またこれは薬剤師としては押さえておきたいことですが、発汗を抑制する抗コリン薬(デトルシトール、トビエース、ベシケア、ウリトス、ステープラ、 ポラキス、ネオキシ、バップフォーなど)も要注意です。
老人は過活動性膀胱でこれらの薬剤を内服していることが多いですから必ず薬剤を調べる必要があります。
心拍出量が増えないと熱射病起こす
通常、気温が上昇してくると熱ストレスにより心拍出量は20ℓ/分まで増加し内臓血流は筋肉や皮膚へシフトします。
つまり心拍出量が増えないと熱射病の可能性が高まるのです。
例えば塩分、水分減少や心疾患、心機能を抑制するような薬剤を内服していると危険です。
抑制するような薬剤とはつまりβ拮抗剤、利尿剤などの内服です。
というわけで、熱中症では必ず内服薬をチェックする必要があります。
血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血→腸管透過性亢進→endotoxin血中へ
熱中症になると、血流が腸間膜から筋肉や皮膚へとシフトするため、腸管虚血が起こり反応性酸素や酸化窒素が増加して粘膜損傷を起こし、腸管透過性が亢進します。
熱射病での炎症反応の原因は胃腸による可能性があるらしいです。
熱射病で体がおかしくなるのは、血流の皮膚、筋へのシフトで腸管虚血が起こり腸管透過性が亢進してendotoxinが血中へ入るから、というもの。
少し難しいですね。
最大酸素摂取量の 80%を超えると腸管透過性亢進する
Endotoxinにより血行動態は不安定となり死に至ります。
ヒトでも激しい運動後にendotoxin、炎症性サイトカイン、急性相蛋白が血中に増加します。
最大酸素摂取量(maximum oxygen consumption:1分間に体重1㎏あたり何mlの酸素を取り込めるか)の80%を超えると腸管透過性が亢進します。
最大酸素摂取量(VO2Max)の計測はトレドミルや自転車エルゴメーターで 負荷を上げていき、呼吸量、酸素、二酸化炭素を計測します。
負荷を上げて酸素消費量がプラトーになった時が最大酸素消費量で全身持久力がわかります。
VO2Maxが大きいほど持久力に優れます。
最大酸素摂取量=心拍出量×(動脈酸素含有量―静脈酸素含有量)ですが、下記のような簡易式があります。
皆様も計算してみてはいかがでしょう。
[aside type=”boader”]計算式
最大酸素摂取量(VO2max)= 15 × 最大心拍数/安静時心拍数 ただし最大心拍数=220-年齢 最大酸素摂取量=(12 分の走行距離メートル-505)/45 [/aside]
最大酸素摂取量は年齢別に下記の通りです。
- 18-39 歳男39ml/㎏/分(11.0 メッツ)、女 33ml/㎏/分(9.5 メッツ)
- 40-59 歳男35ml/㎏/分(10.0 メッツ)、女 30ml/㎏/分(8.5 メッツ)
- 60-69 歳男32ml/㎏/分(9.0 メッツ)、女 26ml/㎏/分(7.5 メッツ)
最大酸素摂取量の 80%に達すると腸管虚血が始まるのです。
マラソン日本代表の川内優輝氏の最大酸素摂取量は82ml/kg/分、 瀬古利彦氏は84ml/kg/分だったそうです。
熱ショック蛋白はシャペロン機能(蛋白折り畳み)で細胞を防御する
熱ストレスに対しほぼ全ての細胞は遺伝子翻訳を介して熱ショック蛋白 (heat-shock protein)を産生しこれにより熱に対する防御を行います。
熱ショック蛋白はシャペロン機能 (蛋白の折り畳み促進)と関連するそうです。
蛋白の構造を折り畳んで熱に強くするのです。
スルメを焼くとクルクルと丸くなるようなイメージがわかりやすいかもしれません。
そもそもシャペロン(chaperon)とはどういう意味でしょう。
仏和辞典で調べたら若い女性につく介添え人のことでした。
だらしのない若い女性(細胞)を介添えのおばさんが手伝って、 蛋白の折り畳みを行うのです。
熱射病患者では炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-1β、Interferon-γが上昇します。
炎症性サイトカインで脳圧亢進、脳血流低下、神経損傷が起こります。
またそれとは逆に抗炎症性サイトカインの IL-6、soluble TNF receptors p55, p75, IL-10も上昇します。
つまり炎症性、抗炎症性両方のサイトカインが増加するのです。
体温を下げてもこれらを抑制できません。
炎症、抗炎症両方のサイトカインが活性化してアンバランスになり炎症または免疫抑制が起こるのです。
IL-6とTNF receptor のレベルは熱射病の重症度と関連し、熱射病患者は感染を起こしやすいといわれています。
熱射病の DIC は敗血症と同じ線溶抑制型 DIC
熱射病で内皮細胞障害、微小血管血栓が著明でDICが起こります。
熱射病で凝固活性が亢進し thrombin-antithombinIII complex(TAT)増加し、Protein C、protein S、antithrombinIIIが低下します。
線溶も活性化し、plasmin-α2-antiplasmin complex(PIC)、D-dimer が上昇し, Plasminogen が低下します。
深部体温を正常化すると線溶は阻止されますが凝固は阻止されず敗血症に似たような状態になります。
DICは凝固亢進に加えて線溶抑制・亢進・均衡で3種類に分けます。
熱射病の DIC は敗血症で多い線溶抑制型だというのです。
DIC の 3 型
- 線溶抑制型 DIC:敗血症が代表。 治療はヘパリン+Antithrombin, γthrombomodulin
- 線溶亢進型 DIC:急性前骨髄球性白血病(APL)、前立腺癌で多い。 治療は NM(フサン)またはヘパリン+トラネキサム酸
- 線溶均衡型 DIC:固形癌が代表。 治療はヘパリン、γthrombomodulin
熱射病ではDIC 否定の為、CBC、Prothrombin time(PT)、 Partial thromboplastin time(PTT)を測定します。
DICを疑う場合は、血小板数、FDP,Fibrinogen、PT を提出し、補助的に SF(可溶性フィブリン)、TAT,PIC (Plasmin-α2-AP 複合体)、 Antithrombin、Thrombomodulin の検査を行う必要があります。
熱射病診断は深部体温>40 度、中枢神経障害の二つ存在。無尿は死亡のリスク
発熱40度以上は一般的に重症高熱です。
熱射病(heat stroke)診断は次の二つの存在が必須です。
- 深部体温>40 度
- 中枢神経障害(譫妄、痙攣、昏睡)
深部体温は40度-47度、ただし前もってクーリングしていれば40度以下のこともあります。
神経症状は意識変容、構語障害、興奮、失調、譫妄、痙攣、昏睡などです。
痙攣はとくに冷却中に起こりやすいです。
古典的熱射病(高温環境暴露)は若人、老人やエアコンのない環境で多いのです。
リスク因子は
- 高齢
- 脱水
- 肥満
- 順応不十分(lack of acclimatization)
- 体調不良(poor physical condition)
- エアコンがない
- 社会的孤立
などです。
熱射病のリスク因子となる精神疾患、心肺障害、電解質異常を起こす薬物 (利尿剤、抗コリン薬)には要注意です。
高熱に寄与する薬剤はアルコール、アンフェタミン、コカイン、サリチレート、幻覚剤、 リチウム、抗ヒスタミン剤があります。
抗コリン薬は過活動性膀胱でよく使われています。
熱射病の死亡率は大変高く21-63%です。
死亡リスクの高いのは特に次の項目です。
- 無尿(HR 5.24 ; 95%CI 2.29-12.03)
- 昏睡(HR2.95 ; 95%CI 1.26-6.92)
- 心不全(HR2.43 ; 95%CI1.14-5.17)
古典的熱射病は呼吸性アルカローシス、運動性熱射病は呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
全ての熱射病患者は頻脈、過呼吸がありPCO2は20mmHg 以下のことが多いそうです。
肺水腫によるcrackleが聞こえることがあります。
Classical heat stroke(古典的熱射病:環境によるもの)では呼吸性アルカローシスが多いのですが、一方運動による exertional heat stroke(運動性熱射病)では呼吸性アルカローシスと乳酸アシドーシスの両方があるそうです。
洞性頻脈、脈圧増加、25%は低血圧です。
脈圧増加は注目すべき項目の一つです。
皮膚は紅潮(皮膚血管拡張)し、湿潤あるいは乾燥しています。
皮膚が湿潤または乾燥は、基礎疾患や熱射病の発病速度、水分投与によります。
熱射病ではARDS、DIC、急性腎不全、肝障害、低血糖、横紋筋融解、痙攣が 起こります。
入院時、低P血症、低K血症が多く低血糖は稀です。
血液濃縮により高Ca血症、高蛋白も起こります。
運動によるheat strokeの冷却後、横紋筋融解、高P、低Ca、高Kがあります。
最重症は多臓器不全で脳症、横紋筋融解、心筋損傷、肝障害、腸管虚血または 腸管梗塞、膵損傷、出血性障害、DIC、血小板低下などが起こります。
検査:胸X線,ECG, CBC,電解質,BUN,Cr,CK,GOT,GPT, PT,PTT,尿ミオグロビン,検尿沈査,頭 CT検査
- 胸部 X 線(肺水腫)
- ECG(不整脈、伝導障害、非特異的 ST・T 変化、熱による心筋虚血・梗塞)
- 採血:CBC、電解質、BUN、Creatinine(急性腎不全) CPK (横紋筋融解) 肝 transaminase(熱射病ではめったに正常値にならない)、 ただし肝酵素異常は 24 から 48 時間経たないと出現しないこともあります。
- Prothrombin time(PT)、Partial thromboplastin time(PTT):肝障害、DIC ・血ガス:古典的熱射病では呼吸性アルカローシスが多い。 運動性熱射病では呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
- 尿ミオグロビン(横紋筋融解)、尿が茶色だったらミオグロビン尿を疑う必要あり
- 検査、沈査で蛋白、円柱、尿比重増加 ・頭部 CT(意識変容)、必要なら髄液検査
DICでは血小板,Plt, Fibrinogen, PT, APTT, SF, TAT, PIC, AT, TM など検査
DICを疑った場合は、血小板数、FDP、Fibrinogen、PT を提出し、 補助的に下記の測定を行うといいといわれています。
- SF(可溶性フィブリン:凝固活性化の指標)
- TAT(Thrombin・Antithrombin 複合体:凝固活性化の指標)
- PIC (Plasmin-α2-AP 複合体:線溶活性化の指標)
- Antithrombin(トロンビン、Xa 因子を阻害)
- Thrombomodulin(血管内皮細胞障害の指標、トロンビン阻止)
冷却しても意識悪ければ髄膜炎、脳出血、視床下部卒中考える必要あり
初期では熱射病と SIRS(全身性炎症反応症候群)の区別はできません。
SIRS は下記4項目の内2つを満たします。
- BT<36 度または>38 度
- 脈>90/分
- PaCO2 <32
- WBC>12,000/mm3または<4,000 または 10%を越える幼若球出現
熱射病なのか SIRS なのか分からなければ、とりあえずクーリングを始めてから考えよとのことです。
クーリングで急速に改善すれば熱射病です。
老人では熱射病の回復は遅くまたβ拮抗薬、Ca拮抗薬使用していると周囲環境の熱、湿度への反応が悪くなります。
冷却にもかかわらず意識が悪ければ、髄膜炎、脳出血、視床下部卒中も考え、頭部CT、髄液検査を行う必要があります。
40 度以上発熱は熱射病、悪性症候群、悪性過高熱を考える
40度以上の高熱を起こすのは、熱射病、悪性症候群、悪性過高熱があります。
悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)は第1、第2世代の向精神薬で起こり下記のような薬剤があります。
[aside type=”warning”]悪性症候群を起こす薬剤
・抗精神病薬(従来からのもの) クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、 メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオチキセン、 トリフロペラジン
・抗精神病薬(比較的新しいもの) アリピプラゾール、クロザピン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、 リスペリドン、ジプラシドン ・制吐薬 ドンペリドン、ドロペリドール、メトクロプラミド、プロクロルペラジン プロメタジン [/aside]
悪性症候群の診断基準は以下の通りです。
Levenson らの悪性症候群診断基準
以下の大症状の 3 項目を満たす、または大症状の 2 項目+小症状の 4 項目を満たせば確定診断
大症状
- 発熱
- 筋強剛
- 血清 CK の上昇
小症状
- 頻脈
- 血圧の異常
- 頻呼吸
- 意識変容
- 発汗過多
- 白血球増多
冷却は40度の湯を体表にスプレーし扇風機、首・脇・鼠径にシャーベット状氷を
熱射病の治療は冷却と臓器機能の維持に尽きます。
意識障害があれば必要に応じて挿管、人工呼吸器開始です。
中枢神経症状の回復があれば予後良好です。
熱射病で脳障害が残った場合の死亡率は高いのです。
冷却はぬるま湯(40度、lukewarm water)をスプレーでかけ扇風機、マッサージします。
風は45度くらいの風が良いそうですが、これは難しいです。
冷水を皮膚に散布して扇風機を使うと皮膚血管収縮と震え(shivering)を起こしますのでやってはなりません。
現場では体温>40度なら着衣を脱がせ涼しい場所(20-22 度)に移しクーリングを開始します。
25 度から 30 度の水をスプレーでかけ扇風機、扇で風を送ります。
また頸部、腋下、鼠経にシャーベット状の氷(slush)を袋に入れて当て、大径動脈を冷やします。
ただし意識がある患者だといやがります。
深部体温<39.4度、皮膚温30-33度を目指します。
冷却は 38-39 度で中止!ノルアド・NSAID 使用不可!低血圧は生食を!
深部体温<39.4度を目指し、38-39度になったらクーリングを中止します。
医原性低体温を起こすからです。
Body Cooling Unit という特殊なベッドがあるそうで、15度の水をスプレーで散布し45度温風を全身に送り皮膚温32度-33度にするのだそうです。
acetoaminophenやaspirinは熱射病に使ってはなりません。
熱射病は視床下部病変ではないしこれら薬剤で肝障害、DIC をおこしかねないので使わないほうがいいとのことです。
Salicylateは酸化的リン酸化のuncouplingにより高熱を起こすことがあります。
筋弛緩剤のDantroleneは無効です。
α-adrenergic agonists (ノルアドレナリン等)は血管収縮して熱放散を妨げますので使用してはなりません。
低血圧に対しては生食 bolus で250-500ml投与して対処します。
震えには benzodiazepine、悪性症候群でなければ chlorpromazine
震え、痙攣は熱射病ではよくあります。
特に冷却時に起こります。
クーリングで震え(shivering)があると発熱するのでbenzodiazepineを注射します。
Midazolam(ドルミカム10㎎/2ml)0.1-0.2 ㎎/㎏から最大4㎎/㎏静注は効くまでに1-5分で1-6時間有効です。
もし震えにBZDが効かなくてかつ悪性症候群がなければchlorpromazine (ウインタミン、コントミン、10、25、50 ㎎/A)を使用します。
ただしchlorpromazineは抗コリン作用があり発汗阻害や低血圧を助長することがあります。
患者を氷水に漬ける(cold water immersion)のは効果的ですがモニターやルート確保が困難になるし老人では死亡率が上がります。
運動誘発性の熱射病で、頬、手掌、足底などスベスベした(glabrous) 皮膚にアイスパックを当てるのも有効で、頸部、腋下、鼠経に当てるより有効という報告があります。
胸腔、腹膜洗浄(peritoneal lavage)を冷水で冷やすのも有効ですが侵襲的ですし 妊婦や腹部手術患者では禁忌です。
22度位の輸液、冷却酸素、冷却毛布も有効かもしれません。
冷水による胃洗浄は水中毒を起こすかもしれません。
アルコールスポンジ清拭はアルコールが皮膚から吸収されて中毒を起こすのでやってはなりません。
横紋筋融解は CK>5,000 は生食 1-2ℓ/h、尿 200-300ml/h に、メイロン使用
横紋筋融解ではミオグロビンが尿に出て赤ワイン色の尿になります。
横紋筋融解では腎不全を起こしますので腎血流確保と利尿、尿アルカリ化を図りミオグロビンによる腎障害(heme-induced acute kidney injury)を防止します。
実際には以下の通りです。
- CPK>5,000 の全患者は十分な生食投与を行え
- まず 1-2ℓ/時間で開始し時間尿量 200-300ml に
- 尿は 8.4%メイロン 150ml を 5%G1ℓに混ぜて 200ml/時、尿 Ph>6.5 に
熱中症総まとめ
熱中症の要点は下記の18個です。
- 熱失神は皮膚血管拡張が原因の失神、熱痙攣は塩分なしの水分補給による筋痙攣
- 人が耐えうる最高温は 41.6-42度で45分‐8時間。49‐50度5分で死亡する
- 湿度75%以上で発汗蒸発不能。発汗で最大600Kcal/時放熱。抗コリン薬注意。
- 心拍出量が増えないと熱射病起こす。β拮抗剤、利尿薬等内服薬に注意。
- 血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血→腸管透過性亢進→endotoxin血中へ入る
- 最大酸素摂取量の80%超えると腸管透過性亢進する。
- 熱ショック蛋白はシャペロン機能(蛋白折り畳み)で細胞を防御する
- 熱射病のDICは敗血症と同じ線溶抑制型DIC。CBC, PT, PTT チェック。
- 熱射病診断は深部体温>40度、中枢神経障害の二つ。無尿の死亡リスクHR5.24。
- 古典的熱射病は呼吸性アルカローシス、運動性熱射病は呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
- 検査:胸Xp,ECG, CBC,電解質,BUN,Cr,CK,GOT,GPT, PT,PTT,尿 myoglobin,検尿,頭 CT
- DICでは血小板,Plt, Fibrinogen, PT, APTT, SF, TAT, PIC, AT, TMなど検査
- 冷却しても意識悪ければ髄膜炎、脳出血、視床下部卒中考え CT,髄液検査
- 40 度以上発熱は熱射病、悪性症候群、悪性過高熱考える必要あり
- 冷却は 40 度の湯を体表にスプレーし扇風機、首・脇・鼠径にシャーベット状氷を
- 冷却は38-39度で中止!ノルアド・NSAIDは使用不可!低血圧には生食を!
- 震えには benzodiazepine、悪性症候群でなければchlorpromazine
- 横紋筋融解:CK>5,000 は生食 1-2ℓ/h、尿 200-300ml/h に。メイロン使用、尿 Ph>6.5 に