現代人の病気の中で問題となっている生活習慣病。
生活習慣病には、主に以下のような病気があります。
- 糖尿病
- 高血圧
- がん
- 脳卒中
- 心臓病
などです。
今回は、この生活習慣病の中でも糖尿病に着目してその考え方と漢方薬について記載していきたいと思います。
薬剤師目線:糖尿病に効果が期待できる漢方薬処方
糖尿病は糖質の代謝異常により、血液中の糖分量、つまり血糖値が慢性的に高くなる病気です。
糖尿病患者とその予備群は、2016年にはそれぞれ推計1000万人を超えており、患者数は年々増え続けています。
血糖上昇や糖尿病の発症には、膵臓で産生され血糖値を下げるホルモンである、インスリンがうまく働かなくなったことが関係しています。
糖尿病には幾つかのタイプがあり、インスリンがほとんど出なくなる1型糖尿病と2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)に大きく分けられます。
患者数の多くを占めているのが2型糖尿病で、インスリンの分泌量が十分でないタイプ(インスリン分泌
不全)と、インスリンは分泌されているが効きにくいタイプ(インスリン抵抗性)とがあります。
2型糖尿病
2 型糖尿病の場合、血糖値は何年もかけてゆっくり上昇し、多くの場合40歳以降に糖尿病を発症します。
初めのうちは自覚症状がまったくないことが多いのですが、次第に
- 疲れやすい
- だるい
- 肌がかさかさ乾燥して痒い
- 手足の感覚が鈍くなる
- 感染症によくかかる
- 切り傷など皮膚の傷が治りにくい
- 目がかすむ
- 性機能の減退(ED)
などの症状がみられるようになります。
高血糖の状態が持続すると、喉や口が渇いて頻繁に水を多く飲む、尿の回数が増える、体重が減少するなど糖尿病特有の症状が表れます。
さらに、高血糖状態が長期にわたって持続することにより、血管壁の変性や血管腔の狭窄が起こります。
つまり血管の壁が硬くなり、血管の中が狭くなります(動脈硬化)。
動脈硬化になると、心疾患や脳卒中になるリスクが高まります。
そのような深刻な経過をたどるにもかかわらず、血糖値が高くても自覚症状がないからと放置している人も多いのが現状です。
しかし糖尿病は上記のようにじわじわと血管壁を硬くし、血液の通り道を狭くしていきますので、放っておくと当然様々な合併症を引き起こすことになります。
糖尿病の合併症
主な合併症には、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞だけでなく、腎障害(糖尿病腎症)、網膜症(糖尿病網膜症)などがあります。
神経障害を伴うことが多く(糖尿病神経障害)、足のしびれや痛みや感覚異常、立ちくらみや寝汗、動作の緩慢なども引き起こされます。
こむら返りも起こしやすくなります。
糖尿病の治療と漢方薬の位置づけ
西洋医学的には、食事制限(食事療法)、適度な運動の励行(運動療法)を基本とし、必要に応じて経口血糖降下薬やインスリン注射薬が処方されます。
糖尿病と血糖値の関係については、以下の記事もご参照ください。
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漢方では、糖尿病体質そのものを改善することにより、糖尿病の治療に当たります。
具体的には、漢方薬を用いて体内の水分バランスやホルモンバランスを調整し、内臓の機能を調え血液の流れをさらさらにし、血管壁の柔軟性を保持し自然治癒力を高めていきます。
糖尿病体質のベースにあるのは陰虚です。
少し難しい話になりますが、陰虚の陰は陰液を指します。
陰液とは人体の基本的な構成成分のうちの血・津液・精のことです。
つまり陰虚証とは、陰液が不足している体質や病状のことで、血や津液による滋養作用が低下している状態を意味します。
陰液の不足による手足のしびれ、やせる、などの症状に加え、陰液の不足により相対的に熱が優勢となるので、熱感、手足のほてり、口渇、寝汗などの熱証がみられます。
糖尿病はまさにこの状態を来しており、陰虚の治療が糖尿病の漢方治療のベースになります。
糖尿病の証には、以下のようなものがあります。
上半身での症状
口や舌が渇いて大量の水を飲むなどの上半身(上焦)で症状がみられるなら、「肺陰虚」証です。
肺は五臓の1つで、呼吸をつかさどる臓腑です(漢方の世界では気をつかさどるといいます)。
また皮毛をつかさどる機能もあり、皮膚とも深い関係にあります。
この肺の陰液(肺陰)が不足している体質が、この証です。
血糖値が上昇して肺の陰液を消耗すると、この証になります。
そのため漢方薬で肺の陰液を補い、糖尿病を治療していきます。
人体の中心部の症状
たくさん食べるのにお腹が空く、やせるなど人体の中心部(中焦)で主に症状がみられるなら、脾気陰両虚証です。
脾は五臓の1つで、六腑の1つである胃との共同作業により飲食物(水穀)を消化して栄養物質(水穀の精微)を吸収し、気・血・津液・精の生成源とし(転化)、さらにその水穀の精微を全身に輸送(運輸)します(運化をつかさどるといいます)。
飲食物の消化吸収や代謝と関係が深い臓腑です。
血を脈管外に出さずに循行させる働きもあります(統血するといいます)。
脾が運化した栄養物質は四肢や筋肉を養う基礎となります(肌肉をつかさどるといいます)。
この脾の機能(脾気)が低下した証が、脾気虚証です。
脾気虚がさらに進み、脾の血などの物質面(脾陰)も不足した証が、脾気陰両虚です。
糖代謝の異常と関係があると考えられています。
脾気と陰液を補う漢方薬で、糖尿病を治していきます。
下半身での症状
頻尿、腰や膝がだるいなど下半身(下焦)で症状がみられるなら、腎陰虚証です。
腎は五臓の1つで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、並びに水液や骨をつかさどる臓腑です。
ホルモン内分泌系や、生殖器泌尿器系、免疫機能と深い関係にあります。
この腎の陰液(腎陰)が不足している体質が、腎陰虚です。
加齢や過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生などによって腎陰が減ると、この証になります。
のぼせ、寝汗などの熱証がみられます。
この証の場合は、腎陰を補う漢方薬で糖尿病の治療をします。
血流障害が生じているようなら、血瘀証の治療もします。
血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。
血管の微小循環障害や、流動性の異常、精神的ストレス、寒冷などの生活環境、寒冷刺激、不適切な食生活、運動不足、水液の停滞、生理機能の低下などにより、この証になります。
疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になることもあります。
血行を促進する漢方薬で血流を改善し、糖尿病の治療や、合併症の予防をします。
糖尿病患者にもっともみられやすい症状
一般に糖尿病患者に共通してみられやすいのは、陰陽両虚証です。
人体の基本的な構成成分である気・血・津液・精を陰陽に分けると、気が陽であり残りの血・津液・精が陰となります。
気・血・津液・精は互いに密接な関係にあり、機能的な面が主体の気は陽気、物質的な面が主体の血・津液・精は陰液と呼ばれます。
陽気と陰液を合わせたものが人体そのものである正気であり、病邪と対置されます。
正気が安定していれば病邪が人体を侵すことはなく、人は健康を維持できます。
この陽気と陰液の両方が不足している体質や病状が、陰陽両虚証です。
糖尿病のベースの陰虚に気虚と冷えが重なり、この証になります。
漢方薬で陽気と陰液の両方を補い、糖尿病の治療に当たります。
まとめ
糖尿病とその症状別における漢方薬の考え方について記載しました。
正直難しいです。ここまで読んでいただいた方には感謝しかありません。
しかし、これだけしっかりした目線で考えると効果が出てくるのが漢方薬の利点でもあります。
ちなみに、漢方に関して重要な事柄を下記の記事でも書いてありますので、読んでみてください。
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糖尿病に対する漢方薬の処方の例として、
ひどい口の乾きや寝汗、頻尿などを認める場合は、肺陰虚であることが多く、この場合は滋陰降火湯という漢方を使用する場合もあります。
すべての証についてどの漢方薬を使用するかは割愛しますが、糖尿病の治療法の一つとして漢方薬の使用を考慮してもいいのかもしれません。
もちろんちゃんとした漢方専門医の指導の下です。
ちなみに、薬剤師の漢方スペシャリストとして
漢方薬・生薬認定薬剤師という資格もあります。
近くに専門医や認定薬剤師がいたら相談してみてもいいかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。